和歌山地方裁判所 昭和56年(ワ)25号 判決 1983年2月21日
原告
金屋タツエ
ほか二名
被告
西口嚴
ほか一名
主文
一 被告らは、連帯して、
原告金屋タツエに対し、七九八万二六九九円及び内金七二六万二六九九円に対する昭和五五年八月二九日から、内金七二万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、
原告金屋富男、同西田美千子に対し、各八三四万二六九九円及び各内金七五九万二六九九円に対する昭和五五年八月二九日から、各内金七五万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、
それぞれ支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は五分し、その三は被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、連帯して、原告らに対し、それぞれ一三二七万九七八五円及びこれらに対する昭和五五年八月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 訴外亡金屋安男(以下、亡安男という。)は、被告赤井産業株式会社(以下、被告会社という。)に雇用されていたものであるが、昭和五五年八月二八日午前一一時一五分頃、那賀郡岩出町大字吉田三二七番地被告会社砂利採取作業場南端側溝付近で側溝型枠組立中、被告会社従業員である被告西口が被告会社所有のシヨベルローダー(型式三菱キヤタピラ九五五K、機体重量一三・九トン、以下本件車両という。)を運転し、農地の埋戻し作業中方向転換の際、側方及び進路前方、路面の状況等を充分注視して本件車両を運転操作並びにバケツト操作をなすべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然方向転換等のバケツト操作及び運転をなした過失により、本件車両バケツトを亡安男の胸部に衝突させたため、肋間動脈断裂、肝挫傷等の傷害を受け、同日午前一一時三〇分頃その場で死亡した。
そうすると、被告西口は民法七〇九条により、被告会社は被告西口の使用者として同法七一五条により、亡安男及び原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務がある。
2 亡安男及び原告らが本件事故によつて被つた損害は、次のとおりである。
(一) 亡安男の逸失利益
亡安男は、畑一一五〇平方メートル、田九五〇八平方メートルを所有して農業を営む傍ら昭和五〇年頃から農閑期に被告会社の臨時工として年間約一五〇日勤務していたもので、本件事故当時、五七歳で、農業経営によつて別紙一覧表記載のとおり合計金二八三万二九四一円の収入を挙げ、右臨時工として年収一〇四万円(日給六五〇〇円)を得ていた。
したがつて、亡安男は本件事故により死亡しなければ、六七歳まで一〇年間右同様の収入を挙げていたものであり、亡安男の本件事故による逸失利益の本件事故時における価額は、生活費を三割控除してホフマン式計算法により算出すると、二一三五万九三五五円(3,872,941×0.7×7.945)となる。
(二) 亡安男の慰藉料 九〇〇万円
(三) 原告らの慰藉料 各二〇〇万円
原告タツエは亡安男の妻、原告富男、同美千子は亡安男の子であつて、原告らの慰藉料としては各二〇〇万円が相当である。
(四) 葬儀費用 八〇万円
(五) 弁護士費用 二五〇万円
本訴請求の認容額の範囲内での相当額である。
3 原告らは、前項(一)、(二)記載の損害賠償請求権をそれぞれ三分の一宛の割合で相続した。
4 よつて、原告らは、被告らに対し、連帯して前記三記載の各損害合計額三九六五万九三五五円の三分の一である一三二一万九七八五円宛及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五五年八月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、(一)のうち、亡安男が本件事故当時被告会社の臨時工として年収一〇四万円(日給六五〇〇円、ただし、被告西口においては年収約一〇〇万円である。)を得ていたこと、(三)のうち、原告らの身分関係は認めるが、その余の事実は争う。
3 同3の事実は認める。
三 抗弁
1 被告西口
本件事故現場は狭い場所であり、本件車両は大きいことから音も高く、亡安男は、被告西口が本件車両を動かす前に声を掛けたことから、本件車両が動くことを知つていたもので、本件車両の動きに注意して自らの安全を確保すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失がある。よつて、相当な過失相殺がなされるべきである。
2 被告会社
(一) 被告会社では日頃から本件車両等の作業については徹底した安全教育をしており、被告西口は、本件車両に乗込む直前から発進させるまでの間に、再々大声で亡安男等の注意を喚起していたので、亡安男は、本件車両が作動、運行することは、直前からのエンジン・ウオームアツプ音、エンジン音の変化により充分知つていたのであるから、重大な過失があつたというべく、過失相殺をすべきである。
(二) 被告会社は、葬儀費として約一五〇万円を支弁した。
(三) 原告らは、労災保険から一時金二〇〇万円を受給し、今後年額六六万五〇〇〇円の年金の支給を受ける。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1、2(一)の各事実は否認する。
2 同2(二)の事実は否認する。
3 同2(三)のうち、労災保険から、原告らが一時金二〇〇万円を、原告タツエが遺族年金として昭和五六、五七年度分合計一三三万円を受給したことは認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
してみれば、被告西口は民法七〇九条により、被告会社は被告西口の使用者として同法七一五条により、亡安男及び原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務があるといわねばならない。
二 そこで、亡安男及び原告らが本件事故によつて被つた損害につき判断する。
1 亡安男の逸失利益
成立に争いのない甲第二号証の一ないし八、第五号証、第六号証の一・二、証人井谷鹿夫の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし三・六ないし八、原告金屋タツエ本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同号証の四・五、証人井谷鹿夫の証言、原告金屋タツエ本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、亡安男は、本件事故当時五七歳で、妻原告タツエ、長男原告富男(会社員)と同居し、畑一一五〇平方メートル、田九五〇八平方メートルを所有し、自らが専ら農業を営む傍ら農閑期に被告会社の臨時工として勤務していたこと、亡安男の農業経営による粗収益は、昭和五四年九月一日から昭和五五年八月三一日までの間において三六四万六〇四一円であり、右臨時工として年収一〇四万円(該事実は原告らと被告会社との間では争いがない。)を得ていたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
ところで、農林水産省「農家経済調査」による昭和五五年度の農家経済の動向(全国一戸当り)は、農業粗収益二四二万〇九〇〇円に対し農業経営費一四六万八六〇〇円で、農業所得は九五万二三〇〇円であるから、亡安男の農業所得は、前記農業粗収益から右割合(六〇・六六パーセント)による農業経営費二二一万一六八八円を控除した一四三万四三五三円であると推認することができる。
したがつて、亡安男は本件事故により死亡しなければ、六七歳まで一〇年間右合計二四七万四三五三円を下らない収入を挙げ得たところ、本件事故による死亡のため右収入を失つたものであり、右収入を得るための生活費としては右収入の三五パーセントと認めるのが相当であるので、これを控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利益を控除して亡安男の逸失利益の本件事故時の価額を算出すると、一二七七万八〇九五円(2,474,353×0.65×7.944949)となる。
2 亡安男の慰藉料
前記本件事故の態様、亡安男の年齢、家族構成等諸般の事情を考慮すると、亡安男の精神的苦痛に対する慰藉料としては九〇〇万円をもつて相当と認める。
3 原告らの慰藉料
原告タツエは亡安男の妻であり、原告富男、同美千子が亡安男の子であることは当事者間に争いがなく、原告らが亡安男の死亡により精神的苦痛を被つたことは想像するに難くないところ、その他本件全証拠により認められる一切の事情を斟酌すると、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告タツエについては二〇〇万円、原告富男、同美千子については各一〇〇万円が相当である。
4 葬儀費用
原告金屋タツエ本人尋問の結果によれば、原告らは、亡安男の葬儀費用として約一四〇万円を負担したことが認められる一方、右費用は、被告会社において支弁したことをも認められ、他に右認定に反する証拠はない。
三 次いで、被告らの過失相殺の抗弁について検討するに、前示事故状況に成立に争いのない甲第四号証の八、一四ないし二六、証人赤井豊の証言、被告西口嚴本人尋問の結果(第一、二回)によると、本件事故現場は、訴外正木敏次所有の那賀郡岩出町大字吉田三二六番地の砂利採取跡地で、被告会社が整地作業中で、本件車両は、右作業の用に供せられていたもので、本件事故当時の本件車両の位置は別紙現場見取図表示の点であり、付近の状況は、同図表示のとおりであること、本件事故当時、亡安男は、同図表示の×点、赤井豊は同図表示の<1>点で、それぞれ南向き(本件車両に背を向けて)で型枠に釘を打つて作業をしていたとき、本件事故に遭遇したこと、被告西口は、本件事故当時、増野智之から当日午後同図表示の型枠内に生コンクリートを注入するのに本件車両の存在が妨げとなるのでこれが除去方を要請され、本件車両を後退さすべく、亡安男らに退去するよう呼び掛けながらもその確認をすることなく、漫然と本件車両を運転して後方に直進中、進路上に作業器具を認め、その破損を回避すべく、側方に何ら注意することなく、急拠同図表示の点のように方向転換したため、本件事故が発生したこと、亡安男と本件車両との間隔に鑑み、被告西口が、当初予想したとおり、本件車両を後方に直進しておれば、本件車両が亡安男に接触する危険性はなかつたことが認められ、他に右認定を動かす証拠はない。
右認定事実のもとにおいては、本件事故は、専ら、被告西口が本件車両を運転するにあたつて、側方及び後方(進路方向)、路面の状況等を充分注視すべきであるのにこれを怠り、危険はないものと軽信し、漫然と運転したため、発生したものといわねばならず、亡安男にもその発生の原因たる過失があつたことは認め難い。したがつて、被告らの右抗弁は採用できない。
四 原告らが、前記二1、2の各損害額合計二一七七万八〇九五円の賠償請求権をそれぞれ三分の一宛の割合(七二五万九三六五円宛)で相続したことは当事者間に争いがない。
したがつて、被告らは、連帯して、原告タツエに対し九二五万九三六五円、原告富男、同美千子に対し各八二五万九三六五円の損害賠償義務を負担するものといわねばならない。
五 ところで、原告らが労災保険から一時金二〇〇万円、原告タツエが遺族年金として昭和五六、五七年度分合計一三三万円を受給したことは原告らの認めるところであるから、それぞれ原告らの右各損害金の支払につき填補されるべきである。
結局、被告らは、連帯して、原告タツエに対し七二六万二六九九円、原告富男、同美千子に対し各七五九万二六九九円の支払義務がある。
六 そして、原告らが本件訴訟代理人に対し本件訴訟提起追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件訴訟の経緯、難易、認容額等に鑑みれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては原告タツエにつき七二万円、原告富男、同美千子につき各七五万円が相当である。
七 以上の次第で、原告らの本訴請求は、連帯して原告タツエに対し七九八万二六九九円及び弁護士費用を除く内金七二六万二六九九円に対する本件事故の日の翌日である昭和五五年八月二九日から、弁護士費用七二万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告富男、同美千子に対し各八三四万二六九九円及び弁護士費用を除く各七五九万二六九九円に対する昭和五五年八月二九日から、各弁護士費用七五万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで前同割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鐘尾彰文)
耕作並びに農業所得一覧表
<省略>
別紙 現場見取図(4)(ショベルローダー移動状況図)(作業員位置図)
<省略>